
■民家の床下は弱肉強食の「野生の王国」の世界であり、シロアリはヘビや小動物にとって
一年中安定して食べることができる主食のようなものだった。
シロアリの被害が問題化したのは戦後になってからだ。私は戦前の日本にこそ、シロアリに対する完璧なシステムがあったと考える。日本人が戦後、先進国家になる上で見逃してきたこととは、
自然との共生システムではないかと考えている。
戦前、日本人は生活するうえでは殆ど化石燃料を使わなかった。
生活で消費されたものの殆どが自然に還り、再生されて、また生命を維持し、エネルギーを提供する。
完璧な循環型社会が出来上がっていた。たとえば、
衣服についてだが、綿や麻、生糸などの天然素材で、染料も草木などの天然物。
着古しは、子ども用に仕立て直し、次は、風呂敷、夜着、産着となり、最後はおしめや、雑巾になる。
そして、薪や焚き木の火付け用として燃やす。
また燃やした後の灰は、調理のときのアク抜き、洗濯や食器洗いの洗剤、あるいは畑の肥料となって、
新たなエネルギーとなる。
食料も、殆どが 有機肥料で生産された地場産品や、家庭菜園などで作られたものを食べていた。
特に人間や動物の排泄物は大都市はともかく、貴重な有機肥料となって、還元される。
住宅も地場産の木材をはじめ、土壁、畳、瓦など全てが土に還るもので、
自然に対する敬意が払われなければ生産できないものばかりか、
神も人間も動物も植物も同居していることが当たり前の社会である。
それは、いらないものは何一つない社会なのだ。日本人は嘗て、自然と共生していたことで、環境に対して思い上がることなどなかった。
様々な動植物を恐れたり、崇めたりしてきた。
害獣とされるウサギやネズミ、イノシシなど全てが神や神の使いとなっている点に 大いに注目すべきだと思う。
それは、人間も生態系の中に含まれて活動していることを
無意識に実践するために必要なものであったと考えている。
特にグローバルな生態系というより、自分のごく身近なところにある生態系に重点が払われてきた。
同じ地方でも、共通のスタイルを持つことは少なく、それぞれの地域で独特の家造りをしている。
自然環境を十分観察し、経験に基づき自分の住んでいる場所の環境を十分把握した上での
日本独自の発想が 日本人の住居には生かされていた。
私を含め、環境共生住宅を計画する人の殆どが、人間にだけ都合のいい室内環境を作り出すための、
自然環境の取り入れ方(風や光などを制御する方法)を論じてしまいがちだが、
本来、環境共生とは生きるもの全てにおいて成立しなければならないものであって、
戦後の「神を恐れなくなった日本人」が陥った過ちの一つだと思う。
戦前の日本の家屋には
周辺に住む全ての生き物達が関わって 生態系を構成していた。古民家の大きく開かれた床下は
現在の風通しや、ネズミの侵入を少なくするためのシステムだけ成立しているわけではない。
■民家の基礎に近づくシロアリの様子はこちらをクリックたとえば、民家の土台を荒らそうとシロアリが近づいても、
そこには ヘビやカエル、ネズミ、猫などによって構成された「野生の王国」が存在している。
高蛋白なシロアリは小動物にとって重要な栄養源である。
ネズミがそこから先の内部に侵入しようとすれば、ヘビや猫によって迎撃される。
古民家の床下の土台や束は 自然石で地面から5~10cm程度持ち上げられているため、
シロアリが登るためには、蟻道を作って進入せざるを得ない。
しかし、布基礎で囲まれることなく外気に開かれているので、風や光の影響をもろに受ける。
だから蟻道作りは、光の当たらない夜が勝負になるが、この時間は、割と風が吹きやすい上に、
小動物やヘビも同じような時間に活動するため、簡単には蟻道を作ることができない。
しかし、布基礎に囲まれた現在の住宅の床下には 基本的には誰も侵入できないのであるが
シロアリだけが、多少時間は掛かっても進入できる。
そして進入できさえすれば、後はシロアリのパラダイスなのだ!!
■現在の住宅の床下は、シロアリにとって天敵の居ないパラダイス!
こうなるとシロアリは人間にとっては憎むべき存在であって、
抹殺するしかないという悲しい結論しか出せなくなってしまう。
嘗て、木を切り倒した後の切り株を掘り起こす作業は 人間にとって大変な重労働であった。
この作業を少しでも楽にするためには、しばらくそのままにしておくのが一番だった。
風や光、雨とシロアリによってぼろぼろにしてもらえば、簡単に土に返すことができた。(まさに共生?)
しかし、現在の住宅を、また古民家のようなつくりにすることは、色々な面で難しいと思う。
次回は現在の住宅に使用できるシステムを事例の一部を交えて説明したいと思います。
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「床下の生態系」というお話、はじめて耳にいたしました。
なるほど、古民家や神社仏閣などは、礎石の上に建っており、自然に囲まれていますネ。
”ガッテン”致しました。
私にとって、とても新鮮で 新しい視点を戴きました。
どうもありがとうございました。
また、御邪魔させていただきます。
失礼致します。